エイモス・チュツオーラ(土屋哲訳)『やし酒飲み』

やし酒飲み (岩波文庫)

やし酒を飲むことだけしか能がないという主人公。彼のために一日に200タル以上の酒をつくってくれたやし酒造りが不慮の事故で死んでしまい、困った主人公は、死者が天国に行くまでの間住むという町まで彼を探しに旅立つ。突然自分のことをこの世のことならなんでもできる神々の<父>だとか言い出して、酒の飲み過ぎによる誇大妄想かと思ったら、ほんとうに不思議なものすごい力をもっており、死神をやすやすと捕まえたりするのだ。道中、人間以外の奇妙な種族(日本でいう妖怪のような存在)に苦しめられたりもてなされたりしながら、奇妙奇天烈、やし酒を飲み過ぎた幻覚のような旅は続く……。

おもしろいのが、各種族が厳格に自分の縄張りをもち決して境界を越えようとしないこと。主人公たちはその境界を越えて旅をすることができる。もうひとつ、子供が恐るべき存在として描かれているのがおもしろい。主人公は妻の指から生まれた子供にさんざん苦しめられて、最後堪えかねて焼き殺してしまうし、ラスト近くでは赤ん坊の死者の集団に痛めつけられるのだ。子供に対するこの恐怖心はどこからきたんだろう。

最後に書誌的なデータを少々。チュツオーラはナイジェリアで1920年に生まれ1997年に亡くなっている。この小説は1946年に書かれた処女作。原語はカタコトの英語。訳もそれに対応してですます調とである調が混在する奇妙な文体になっている。

★★★