コルタサル短編集(木村榮一訳)『悪魔の涎・追い求める男』
本書に所収されている『南部高速道路』という短編を長塚圭史が脚色・演出している芝居をみて、とてもよかったので、原作を読もうと思って手に取った。
初期の作品から後期の作品まで幅広くとりあげられているようだ。コルトレーンを彷彿とさせる破天荒な天才サキソフォンプレイヤーを彼の伝記作者にして友人の目から描いた中編『追い求める男』をのぞいては幻想小説というジャンルに入る作品だが、前半に収録されている作品たち、たぶん初期のものだと思うが、あまりぴんとこなかった。ちょっと古臭いし、センチメンタリズムがべたついて感じられた。対照的に後半の作品の切れはすばらしい。なんといっても『南部高速道路』、道路のひどい渋滞でなかば難民化した人々が築きあげるつかの間の共同体の美しさ。ほかに航空機の乗務員がいつも正午近く機上から目にする島にあこがれる『正午の島』。演劇をみにいったら途中から舞台に上げられて俳優として演じる羽目になる『ジョン・ハウエルへの指示』。二つの時代も設定も異なる物語が切れ目なくタペストリーを織り上げ最後にひとつに混じり合う『すべての火は火』。どれもクールだ。
★★