思想地図β Vol.1

思想地図β vol.1

この「思想誌」がどういう理念や文脈の元に創刊されたかということは、あちこちに書かれていると思うのであえてくりかえさない。その理念に共感し、文脈を理解しているということもあるが、今回本誌を買ったのは、ショッピングモール特集に惹かれたからだ。

ショッピングモールが好きだ。テナントが気軽に入れる店が多いというのもあるが、空間として好きなのだ。百貨店やショッピングセンターが歩きを不便さとして排除したのに対し、ショッピングモールは、遠い先祖の商店街から歩くという行為を引き継いで、デザインに意図的に取り入れているのが、好感を感じる理由かもしれない。商店街にはない、無料で休憩するためのスペースも用意されている。本誌に収録されている対談で北田暁大さんが子供のいない単身者が排除されているといっているが、決してそんなことはないと思う。もちろん、そこには一定の排除はあるだろうが、バリアフリーだし、ほかの場所よりは文字通り間口は広い。

そのショッピングモールの歴史や蘊蓄をまとめて読めて素直におもしろかった。特集の最後のブックガイドが今後の参考になりそうだ。

第2特集の「パターン・サイエンス」は思想誌なのに理系テーマかと意外に感じたが、自分が理系出身だからいうわけではなく、何を考えるにも理系的な手法や素養は必須だと思う。本誌の創刊理念にも関わるが、一部の「思想」がジャーゴンをジャーゴンでいいかえるという伝統芸能になっていたことは否定できないと思う。そこに適切な外部をもたらしてくれるのは、理系分野だろうと思っていた。今回の特集は、どちらかといえば、分野内部での応用例を紹介するのがメインだったが、鳥のさえずりやら生物の分類の話はおもしろかったし、重要なキーワードをひろいだすことができたので、いろいろ役立ちそうだ。

あと、これは旧来の思想誌的な内容になってしまうのかもしれないが千葉雅也『インフラクリティーク序説』という論文に書いてあった(ドゥルーズ『意味の論理学』から引用した)表層/深層の区分は、まさにスピノザの思惟、延長という二つの属性に対応しているような気がした。この前の福嶋亮大の論考とあわせて、どちらにもスピノザの名前が本論とあまり関係ない形で登場するのがおもしろい。

という感じで、なかなか刺激的な一冊だった。