脱力系のユーモアと、底抜けにラディカルなシュールさが特長の劇団五反田団を主宰する前田司郎の処女小説が文庫されたというから読んでみた。
主人公の「僕」は大学5年生。何かに夢中になることもなく、学校もバイトもさぼり気味、恋愛もまた流されるまま。そんな怠惰な日常を描いた私小説的な青春小説なんだけど、ときおり夢とも現実ともつかない不思議な幻想描写が挟みこまれる。そういうところは幻想的な作風の日本の女性作家たち、特に川上弘美を彷彿とさせるけど、もっと硬質というか手触りがはっきりしているような印象を感じた。