京極夏彦『鵼の碑』ebook

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前作『邪魅の雫』以来なんと17年ぶりの百鬼夜行シリーズ。前作はほぼ完全に忘れ去っていて、シリーズ共通のキャラクターもあやふやになっていた。もちろん、独立した作品なのでそれでも全然大丈夫だ。

鵼(ぬえ)とは源頼政が退治したとされる、「頭は猴、手足は虎、胴は貍、尾は蛇」の姿をした化け物だ。この姿になぞらえたタイトルの章でそれぞれの視点からかわるがわる異なる過去の事件が語られる。

『蛇』と題された章の語手は劇作家の久住。彼は滞在中のホテルの部屋付きメイドである登和子から子どもの頃に実の父を殺したことをつい最近思い出したという話を聞く。登和子は姿を消し、久住は、偶然出会ったシリーズのメインキャラクターである小説家の関口とともに彼女を探す。

『虎』という章の語手は御厨。彼女は、失踪した寒川の捜索を薔薇十字探偵社に依頼する。薔薇十字探偵社はメインキャラクターのひとり榎木津が創立した探偵社で今回は彼でなく元刑事の探偵益田とともに寒川の足跡をたどる。寒川の父の死にまつわる謎が浮かび上がる。

『猨』は事件じゃなく埋められた箱に入っていた古い書物の謎。僧侶の築山がおなじみの古書店主中禅寺の助けを借りて調査にあたっている。

『貍』は、芝公園で三体の死体が発見されたものの警察の捜査後に忽然と消え失せた過去の事件を、刑事の木場が追う。

4つの事件と謎は日光の山奥でひとつの「プロジェクト」に帰結する。その結び目の役割を果たすのが『鵺』という章での緑川だ。彼女は大叔父の遺品整理でこの山奥を訪れており、関口、中禅寺、榎木津とは知古の関係らしい。彼女の大叔父は「プロジェクト」のキーパーソンのひとりだった。

終章はいつものように中禅寺による憑き物落としパートだ。タイトルは『鵼』で同じぬえでも字が違う。化け物は本来存在しないもので討ち取られたあとで名前や姿が決まるという性質が、今回の一連の「事件」と相似で、その整合性は美しいと思った。

いつもながら舞台は戦後ほどない時期の日本だが、けっこうこういう話は普遍的で、現代にも十分通じる話だと思う。ぼくたちも存在しない化け物に振り回わされている。中禅寺の憑き物落としは現代にも必要だと思わされた。

★★★