P・D・ジェイムズ(小泉喜美子訳)『女には向かない職業』

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22歳の女性であるコーデリア・グレイはこの物語の開始時点で小さな探偵事務所の共同経営者だが、冒頭で所長のバーニイが病気を苦に自殺してしまい、彼女がひとりで事務所をきりもりしていくことになる。コーデリアの半生や探偵になるまでの経緯は、回想的に合間合間で語られる。

本書の主題は、コーデリアがはじめてひとりだけで手がけた事件だ。高名な科学者のロナルド・カレンダー卿が自殺した息子マークの死の理由をつきとめてほしいと依頼してきたのだ。最初、殺人の犯人捜しじゃなくじゃなく自殺の理由の調査なんて地味だと思ったが、調査を進めるに従って意外な事実が明らかになってゆく。

割と有名な作品だから、P・D・ジェイムズのメインのシリーズかと思ったら、コーデリア・グレイのシリーズは本作を含めて2作品しかなくて、メインは本作にも登場するダルグリッシュ警視という中年男性警察官のシリーズなのだった。探偵が若い女性という目新しさで読ませようとする安易な作品ではまったくなかつた。彼女は通常の探偵としてはあるまじきことに犯罪の隠蔽に手を貸すのだ。それは、抽象的な倫理ではなく、一人の人間、それも死者の尊厳を守るための行為で、一片の迷いもないもないその選択に、コーデリアという人間の切実さがあらわれていた。

訳は硬いし、会話文、特に女性のセリフが「どうしてですの?」みたいに戦前の女学生みたいな感じで古いのが今ひとつ。

★★★