ポール・ベンジャミン(田口俊樹訳)『スクイズ・プレイ』
ポール・オースターが他の長編小説発表前に別名で書いたハードボイルド探偵小説。
検察をやめて探偵業を営むマックス・クラインに、元メージャーリーガーで政界進出が噂される、ジョージ・チャップマンが依頼をもちかけてくる。心当たりのない脅迫状が届いたというのだ。クラインは、5年前チャップマンの選手生命を奪った事故が関係しているのではないかと調査をはじめる。
謎解きがいまひとつ単純で、意外性がないように感じた。とにかく人が死にまくるし、暴力も不必要に多い。軽口が多すぎて無駄に敵を作っている気がして主人公にそんなに愛着はもてないが、ハードボイルド探偵ものにつきもののメタファーはさすがオースターとうならせるものがある。
読後感はほかのオースターの作品と共通するものがある。クラインはこの事件を解決するなかでわずかな報酬を別とすれば何も得ておらず、事件と直接関係ないが家族とのかすかなつながりすら失おうとしている。事件の真相もわかってしまえばありきたりで価値がないものだ。そこでたちあらわれる虚無感はオースター作品におなじみのものだ。これを描きたくてオースターはハードボイルド小説という形式を選んだのかもしれない。
★★