吉田量彦『スピノザ 人間の自由の哲学』
今までいくつかスピノザ本を読んできたけど、本書はけっこう異色だ。
ひとつめ。スピノザの思想だけでなく家族、生涯、死後の受容に焦点をあてている。いまだにけっこうわからないことが多いのだが、父の事業を受け継いで営んでいたときの訴訟記録や、スピノザの兄弟のその後の行く末(カリブ海の島に渡って亡くなっている)とかこれまで知らなかったようなことがわかった。
ふたつめ。スピノザの主著『エチカ』だけでなく、『神学・政治論』や遺稿の『政治論』にページが割かれている。特に『政治論』はあまりとりあげられることがないので興味深い。
いくら人間の自然権 =自由にきちんと目配りしているリベラルな政体であっても、いわば自由の大切さのわからない人たちによって、あっさり滅ぼされてしまう危険をいつでも抱えていることになります。
『政治論』のあちこちには、ひとびとに最低限の合理性が根づくための、そして自由の大切さに気付いてもらうための、好都合な条件をどうしたら生み出せるかという断片的な考察がちりばめられているように思われます。具体的には、経済活動の浸透によってひとびとの間に合理的思考が広がることや、公教育機関で偏向した宗教教育が行われなくなること(『政治論』第八章四九節)などをスピノザは望んでいたようです。
まさに現代リアルタイムで進行している状況とシンクロする問題意識をスピノザがもっていたことがわかる。
本書のもうひとつの特色は、ユーモラスな語り口だ。読みやすくて引き込まれた。
★★★