山尾悠子『ラピスラズリ』

ラピスラズリ (ちくま文庫)

「冬眠者」という冬の間死んだように眠る人々を題材にした連作短編集。

冒頭の『銅版』は、深夜の駅の画廊で、見つけた3枚の銅版画。そこに描かれているのは「冬眠者」たちの謎めいた歴史と生活。プロローグ的な作品で、この銅版のシーンが以降の作品の中で再現されるか示唆される。

『閑話』は一番好きな作品。冬眠者の少女が眠れず目が覚めてしまう。そこにあらわれたゴーストは彼女を助けようとする。そんなゴーストの前にあらわれるうりふたつの存在「わたしは誰でもない、鏡でもあり記憶でもあるものだ」「そして谺でもある」「つまり、ここでずっと待っていたわたしはおまえの<定め>だよ」などという。

『竈の秋』は本書の半分以上を占める。長さは中編だが、登場人物の多さや視点移動のめまぐるしさは長編的だ。『閑話』の続編ではあるが、破滅へのカウントダウンが語られる。音楽でいうと長大なスケルツォと葬送行進曲。

『トビアス』。近未来の衰退した日本を舞台にしたアナザーストーリー。悲惨な断片が語られるが出来事の全体像ははっきりしない。

最後の『青金石』は春の物語。死を前にした聖フランチェスコと冬眠者の青年の出会いと祝福が描かれている。美しい作品。青金石はラピスラズリの和名だ。

★★