ウィル・ワイルズ(茂木健訳)『時間のないホテル』
クリストファー・プリーストが激賞していたというのをどこかでみて読んでみることにした。イギリスの新進作家による巨大なホテルを舞台にした一風変わったSF作品。
前半は不条理系。イベント参加のためイングランドの新開地にできた巨大ホテルに宿泊する主人公ニール・ダブルは、イベントから締め出されて雨の中高速道路を徒歩で横断するはめになったり、知り合いの女性の名前を間違えてワインをひっかけられたりさんざんな目にあう。まさにカフカなど不条理小説の中に出てきそうな出来事ではあるのだけど、実際はこれらはある意味身から出たサビであり、不条理な要素は皆無なのだった。それと並行してホテル内をたまたま散策したニール・ダブルは奇妙な体験をする。これは前半宙づりのままで彼の「不運」とどういう関係があるのかわからないまま話は進んでいく。
後半に入って唐突にニールの「不運」の問題は解決するのだけど(つまり完全に身から出たサビだった)、うってかわってもうひとつのホテルをめぐる謎が前景に浮かび上がり、彼と謎の美女ディーはホテルの無限に続く迷宮のなかをかけまわり敵と攻防をくりひろげるハリウッド映画ばりの冒険活劇になる、まさかの展開だった。
途中、いきあたりばったりのような感じもしたけど実は細部まで計算されている作品だ。まあ、それはよくも悪くということで、ちょっと世界観がこぢんまりしてしまった印象もある。読後感が爽快なのはまちがいない。
★★