佐藤亜紀『スウィングしなけりゃ意味がない』
はじめての佐藤亜紀。旧作から読んだほうがいいかとちょっと迷ったが、結局最新作の本書から読むことにした。
舞台はドイツの港湾都市ハンブルク。1924年生まれの主人公の少年エディ(エドゥアルト・フォス)の十代後半(15歳から19歳まで)が描かれる。それは第二次世界大戦とちょうど重なり合う。彼は有力者の息子だったが、ナチを嫌い馬鹿にしている。彼が愛するのはご禁制のジャズ。それにあわせて各章のタイトルは(ワグナーのアリアをのぞいて)ジャズのスタンダードナンバーで歌詞が引用される。
彼はしばしば仲間とナイトクラブに繰り出す。彼は厳しい状況を逆手にとって困難を切り抜ける。あまりにもスマートでほれぼれとする。といっても無傷というわけにはいかない。親しい人々を失い、彼自身鑑別所に収容され苛酷な体験をする。
ビルドゥングスロマンの枠組みでとらえそうになるけどエディはもともと世慣れた大人だ。エディは本質的には成長してない。ただところどころに子どもらしい感傷や弱さが見え隠れする。そういう細部のエピソードの積み重ねがリアリティーを高めてゆく。戦争とナチの糞ぶりも余すところなく描かれている。戦争のさなかに語られるやがて世界中の音楽を世界に向けて流通させるという夢が感動的だ。結局最後に残るのは爽快感だった。
飜訳すれば海外でも読まれる気がする。旧作も読んでみよう。