コニー・ウィリス(大森望訳)『航路』
臨死体験(NDE)をテーマにした小説。
睡眠を取るのも忘れて、何夜も朝方まで読みふけってしまった。電子書籍だったので本の厚さはわからないが、文庫だと上下巻あわせて1000ページ以上あるはずだ。
NDEを調査する心理学者ジョアンナは薬品を使って人工的にNDEと同様の状態を脳に発生させるプロジェクトに参加しやむを得ず自ら被験者になる。NDEの中で彼女は毎回同じ真っ暗な通路に出る。通路の先にはドアがあり隙間からは光が漏れている。向こう側からは人の話し声が聞こえた。ドアを開けるとそこには白い服をきた人々がいる。そこはなんとタイタニックの船上だったのだ……。
一見オカルトみたいだけど、まったくそんなことなく、生と死を直視した、力強い勇気にあふれた作品だった。
カギとなるのはメッセージだ。NDEの中に隠されたメッセージはメタファーで変形されなかなか読み解けない。伝えなくてはいけないメッセージは邪魔がはいったりタイミングが悪かったりして伝えられない。そして伝えられないまま悲劇というかむしろ喜劇としかいいようがない偶発的な出来事が起こる……。
まあ、この作品に限らずコニー・ウィリスの物語を駆動しているのはメッセージのすれ違いのような気がする。まわりの状況は非効率と非合理に満ちているし、人は信じれないような愚かな行動をとる。伝えたい相手には会えない。会いたくない人に会って無意味なメッセージを伝えられる。この作品が書かれたのは2001年で、そこそこ携帯電話が普及していたし電子メールも使われていた気もする(作中ではポケベルが使われているがよく電源を切っている)。正直、登場人物のまぬけな行動にはいらいらさせられぱなしだったが、それが笑いをうみ、そして何より物語を動かしているのだ。
ラストがすばらしい。どんな船も必ず沈む。でも、きょうは違う。きょうだけは。