スティーヴ・エリクソン(越川芳明訳)『きみを夢みて』

きみを夢みて (ちくま文庫)

久しぶりに読む紙の本にして、『黒い時計の旅』以来2冊目のスティーヴ・エリクソン。

(ストレートには意味をとりにくい)詩的な表現が全編にあふれていて、小説というより壮大な叙事詩を読んでいるような気になってくる。テーマはずばりアメリカ(という理想)だ。ロサンゼルス郊外で暮らすある家族(元小説家で失業中のザン、落ち目の写真家ヴィヴ、彼らの実子パーカー、エチオピアから迎えた養女シバ)のファミリーストーリーに、2008年のオバマ大統領の当選、1968年のロバート・ケネディの大統領選挙中の暗殺、デイヴィッド・ボウイがベルリンで音楽活動を行った1970年代末から1989年の壁崩壊、など内外の歴史的なイベントがかぶさってくる。前面には出てこないがリーマンショックも主人公家族の破産、自宅の喪失という形で片鱗をみせる。

黒人のシバを迎え入れた白人家族という構図は、アメリカという国の来歴だけでなく、その理想をも象徴している。シバの祖母にあたる女性がザンにささやいた言葉がその中に反響する。ラストの、家を失った家族が橋の上で食べて眠るシーンはまさにそのアメリカ的希望にあふれたシーンだった。

8年間のオバマ政権が終わろうとし、デヴィッド・ボウイが亡くなった年にこの本を読んだのはとてもいい巡り合わせだった。