ベン・H・ウィンタース(上野元美訳)『地上最後の刑事』
舞台となっているのはほぼ現代だが、半年後に直径6.5kmの小惑星が地球に衝突し人類の半分以上が即死し文明の消滅が確定しているという設定。秩序はかろうじて保たれているが、自殺したり、離職して死ぬまでにしておきたいことリストを実現しにいく人が続出して、衝突前から文明は崩壊しはじめている。
そんな中深夜のファーストフード店でベルトで首をしめて死んだ男性の死体がみつかり誰もが自殺と判断する中新人刑事ヘンリー・パレスはただひとり殺人の疑いをいだき捜査を行う。
主人公パレスの造形がいい。平凡だがとにかく生真面目でどんな状況でもガッツを失わない人物として描かれている。
人類滅亡が背景にあるものの、形式をとれば事件を解決する探偵小説だ。探偵小説が事件の凄惨さのわりにお気楽に読めるのは、探偵は事件の埒外にいるからなのだが、この小説の場合、事件そのものも小惑星衝突がらみだし、その事件から一歩引いてみても、がつんと小惑星にぶつかってしまって、ずばり滅亡テーマのSFを読むよりよほどテーマが重くのしかかってくる。
事件はちゃんと解決するものの後味の悪さは保証できる。損得を積み上げればパレスは捜査なんかしないほうがよかったことになってしまう。ところどころにかすかな希望を感じさせる場面がないではないが、パレスは生半可な希望を徹底的に拒否する。そのきっぱりした態度には感服せざるを得ない。
これは三部作の第一作だ。残りもすでに飜訳、刊行済みだ。ちょっぴりつらいが、読まずにはいられない。