円城塔『バナナ剥きには最適の日々』ebook

バナナ剥きには最適の日々

Kindleの半額セールに飛びついた。タイトルから思った通り円城塔版ナイン・ストーリーズ。あ、でも10編入っているなと思ったら最後の『コルタサル・パス』は文庫版に追加収録された作品だそうだ。

円城塔の作品集の中では一番とっつきやすいのではないだろうか。特に『バナナ剥きには最適の日々』、『祖母の記録』はメタ成分が少なくて、しっかり物語していて、かつ叙情的だ。『バナナ剥き〜』では恒星間探査船に搭載された人工知能が架空の友達を創造して無為な日々を過ごす。『祖母の記録』は老齢で人事不省になった老人たちによる映像の中での冒険。

6作品目の『捧ぐ緑』でゾウリムシ研究者の主人公が学会で知り合った恋人を質問者と呼び続けるのに萌える。『エデン逆行』の祖母や祖父の記憶と姿形を孫が引き継ぐ時計の町で少しずつ多様性が失われていき、最後男女それぞれ1種類のアダムたちとイブたちが残るイメージは鮮烈だ。

文庫版に追加収録された『コルタサル・パス』は、通信はできるけど身体を行き来させることはできない別の宇宙の間の恋の話に、メルヴィル『白鯨』へのオマージュを織り交ぜた作品。

今日本で「世界」に一番近い作家は円城塔だという思いを新たにした。