モンキー ビジネス 2008 Fall vol.3 サリンジャー号、2008 Fall vol.3.5 ナイン・ストーリーズ号

モンキー ビジネス 2008 Fall vol.3 サリンジャー号モンキー ビジネス 2008 Fall vol.3.5 ナイン・ストーリーズ号

英米のコアな文学の潮流を紹介するとともに、日々それをヴィヴィッドな訳文にうつしかえている柴田元幸さんが責任編集をつとめる雑誌が発刊されたことにはすぐ気がついたものの、なかなかきっかけがなく、時間ばかり過ぎ去ってしまったが、サリンジャーときいて、ようやく手を伸ばした。伸びきるまでにもかなり時間がかかってしまったが……。

「vol.3 サリンジャー号」には『ナイン・ストーリーズ』の柴田元幸による全訳が収録されている(「vol 3.5 ナイン・ストーリーズ号」ではないので間違えないように。しかも、その後ハード・カヴァー版が出たので、vol. 3の入手は難しくなっているかもしれない)。以前野崎孝訳で読んでもっともらしいことを書いてはいるが、今から思うと、全然この短編集のすごさを理解していなかったなと、片腹痛い。

そのすごさは、vol3.5 冒頭の柴田元幸と岡田利規の対談の中に余すことなく表現されているので、ぼくがわざわざここで貧しい言葉をひねりだすまでもないんだけど、それってこういうことだよね、という割り切りをとことん拒否する力強さというか細部の豊かさだ。

vol3.5 でナイン・ストーリーズに関する部分はほんの一部なんだけど、それ以外の部分がとてもおもしろかった。国内外の現代の短編小説がおもちゃ箱的に集められていて、好きなタイプでなおかつ聴いたことのない曲ばかり流れるラジオ番組のような楽しさだ。なかでも、フィリップ・オケリーの『ドナウ川まで歩く』は、東欧圏の過酷な現実が、主人公の徒歩の旅を、魔術的な冒険譚のようにみせていて、とてもよかった。短編集が邦訳されたらぜひ読みたい。