古川日出男『ボディ・アンド・ソウル』

ボディ・アンド・ソウル (河出文庫)

なぜかほとんどの書店で古川日出男の単行本は国内ミステリーの棚に置いてある。そもそも彼の小説でミステリーと呼べるものはあるんだろうか。むしろ、もし今まだ「ブンガク」のメインストリームが流れているとすれば、古川日出男は、その中央に近いところを巨大船団を組んで航行しているとぼくは思うんだけど。

さて、本書は、編集者や友人たちとの交流、執筆活動、料理、飲食、散歩(そう、古川日出男もまた散歩愛好者なのだ。それがぼくが彼の作品を好きな理由の一つかもしれない)等、小説家フルカワヒデオの(どの程度まで真実なのかはわからないが)身辺雑記、小説のアイディアとして披露される物語の断片や幻想(それは日常世界の方へも侵入してくる)などのパートがおりなすパワフルで即興的なセッションだ。

最初はひとつの男声で語られる物語に、後半女声が加わって、最後に『ボディ・アンド・ソウル』というタイトルの意味が明らかになる。それを理解できるのは論理ではなく、音楽的な感性だ。

言葉のパワーがとにかくすごい。ある世界を記述するための言葉が、どうしてもその世界から飛び出してしまう。そこにぼくは「ブンガク」を感じるんだけど、むしろそれは「オンガク」と呼ぶべきなのかもしれない。

お勧め★