ジョセフ・ギース/フランシス・ギース(青島淑子訳)『中世ヨーロッパの都市の生活』

中世ヨーロッパの都市の生活 (講談社学術文庫)

いわゆる暗黒時代からぬけだして中世文化が花開いた西暦1250年という年の、フランスシャンパーニュ地方のトロワという町における、人々の生活をさまざまな角度から描き出している。

トロワはいまでは人口6万人、パリから電車で一時間半のところにある郊外の小都市だけど、1250年には1万人という当時有数の定住人口をかかえ、夏と冬に開かれる大市にヨーロッパじゅうの商人が集まる中心都市だった。ちなみにスペルはTroyes

1250年にはまだガラス窓はほとんど普及してなくて、裕福な市民の家でも窓枠をリネンの布地で覆っていたそうだ。ただあるところにはあるというか、ステンドグラスの技術はすでに完成して、教会建築にはかかせないものになっていた。

当然活字は発明されていないので本はとても高級品だった。またコショウなどの香辛料も高級品で、運搬するときにはダイアモンド並みの厳重さで護衛されたそうだ。

女性の地位は公的には低かったが、裕福な市民の場合は敬意をもって扱われたし、女子修道院院長など権力を持っている人もいた。ユダヤ人は公的には保護の対象になっていたが、それがその公によってくつがえされることもしばしばだった。異端狩りなどもおこなわれ、悔い改めない場合は火あぶりになったようだ。

大市でにぎわったトロワだが、14世紀に入ると急速に衰退する。その理由として、税金の高騰、階級闘争、疫病や戦争、飢饉などいくつか挙げられるが、決定的な要因は謎のようだ。

13世紀のヨーロッパというととても遠い感じがするが、都市というくくりでみれば、現代と共通なところがたくさんある。発展したり衰退したり、都市には生命と同じような神秘を感じる。