池谷裕二『進化しすぎた脳 中高生と語る[大脳生理学]の最前線』
大脳生理学の最新のトピックを中高生向けに講義したものをまとめた本。文中にでてくる彼らの応答から察するに、中高生といってもぼくを含めたその辺の大人よりよっぽど優秀だった(慶應義塾ニューヨーク学院高等部の生徒たちとのこと)。専門的になりすぎず、かといって細部を省略しすぎず、聞き手の興味のつぼを刺激し続ける話術はさすが大脳生理学を研究しているだけのことはあると思った。ひとつひとつのエピソードがとても興味深いのだが、その中からひとつだけ紹介しよう。
人がボタンを押すときには、まず押すという運動を司る神経が先に反応してから、押そうという意識が生まれるそうだ。つまり、ぼくらが「~しよう」と思うのは実は「~した」という事後報告なのだ。その回の行動に関してはその意識はまったく無意味だけど、それによって脳の構成が変化して、次回以降の行動に影響を与える。ひょっとすると心は宿命から逃れて未来を変えるためにあるのかもしれない。