鈴木謙介『ウェブ社会の思想―をどう生きるか』

ウェブ社会の思想―〈遍在する私〉をどう生きるか

TBSラジオで放送されているLifeのファッションリーダー、charlieこと鈴木謙介さんの著書。ラジオでは、若干あいまいだったり、本筋からはずれそうなリスナーからのメールや他の出演者の発言を、巧みに(しかも嫌みにならずに)整理して方向づけし直す能力に感心することしきりだけど、本書でもその能力がいかんなく発揮されて、論旨がとてもわかりやすく整理されている。

通信インフラの発達、およびその上を流れる情報量の増大で、ぼくたちの生活はヴァーチャル、リアル問わず格段に便利になって、いわば最適化されつつある。それによって、個人の生や、社会のあり方も変化を被らざるを得ない。個人は、趣味や価値観を共有する者たちだけの偏狭なセカイに閉じこもり、自分の欲望が不在のまま、宿命として決定された人生を生きているように思えてくる。社会からは、同じ社会を構成しているという共感・公共性が失われ、民主主義を守ろうとすれば、公共性を制度的に強制するか(工学的民主主義)、あるいはばらばらであることを是認してそれでも立ちゆくような自律的な制度をつくりあげるか(数学的民主主義)、どちらかの道しか残されていない。

というような、個人と社会それぞれの半ば絶望的に感じられるような変化を予測しつつ、本書はその先にかいま見える希望について語ろうとしている。スローガン的にいうなら、「自分だけの閉ざされた宿命より他者と関係することへの宿命を」ということで、後者を選ぶことがすなわち「成長」なのだという。

考えてみれば、生物はまわりの環境にあわせて自分たちの姿を変えてきたが、人間は逆に環境を自分たちにあわせて変えてきた。人間がそれぞれ環境の受け取り方が異なる以上、個人ごとに環境をカスタマイズしていくのは当然の流れなのかもしれない。心地よすぎてそこから出ることができなくなることも含めて。でも、その心地よさの中にどこか息苦しさがあることも事実で、たぶんそれが「宿命」というものなのだ。

この「宿命」を発見して、名前をつけたことだけでも本書は十分価値があると思う。