奥泉光『『吾輩は猫である』殺人事件』
『吾輩は猫である』で猫が水甕に落ちてそのまま死んでしまうのは忍びなかったので、続けて、その猫が生き延びて活躍する物語を読むことにした。なんと猫の飼い主だった苦沙弥先生が東京の自宅で殺されていたのだ。それを遠く離れた上海で、名無しの猫君およびその仲間の猫たちが推理する。
オリジナルの『吾輩は猫である』からは、主要な登場人物のほとんどが再登場しており、またその文体が巧みに模倣されている。だが、むしろ重要な役割を果たすのは同じ漱石の『夢十夜』という掌編集の方で、猫の夢として引用されるその幻想的な内容が、伏線としてきいてくる。
タイトルには「殺人事件」とついているが、単なる犯人捜しでは全然なくて、後半国際的謀略にまきこまれる冒険ものになり、最後はSFでしめられる。読み終えてみると、幻想文学だったという、ほんとうにてんこ盛りの一冊だった。