奥泉光『ノヴァーリスの引用』
恩師の葬儀で久しぶりに集まった学生時代の友人四人は、ふと十年前に謎の死を遂げた男のことを思い出す。それぞれの思いをこめた語りの中で、彼の死そして生に新たな光がなげかけられる。その光が新たな闇を呼び、そして光と闇はメビウスの帯のように幻想の中でつながる。
ノヴァーリスというのは、短い人生の間に死を賛美する作品を書き続けたドイツロマン派の詩人。
「探偵小説が面白いのもね、死に決して触れないからなんですよ。偽物の死を弄んで本物の死を回避するんです」という作中の言葉が示すように、この物語も死に触れることはできない。死とは結局単なる忘却だ。今回浮かび上がった死者の記憶も、すぐにまた忘れ去られてしまう。
地味だけど、ボルヘスのような、様式的で美しい物語だった。