コニー・ウィリス(大森望訳)『ドゥームズデイ・ブック』
美人女子学生が14世紀のイギリスにタイムトラベルする話だというから、少女漫画的なほんわかSFを想像していたのだけど、それはあまりに大きな勘違いだった。
21世紀、14世紀両方を同時(というのはおかしいが)並行的に襲う疫病。問題は解決せず積み重なるばかり。読んでいて、歯がゆさと絶望を感じるばかりなのだが、そこから目を離せず否応なしに物語の中に引き込まれてしまう。SF的な仕掛けや物語の構成に特に新規性や驚きがあるわけではないんだけど、ただそこで語られている出来事そのものに胸を突かれた。それは何かの比喩だったり、そこから教訓がひきだせたりするものじゃなく、その時代にありえたであろう「歴史的」出来事に過ぎないのだけど、そのことがとてつもなく重いのだ。最初のうちは、2054年の設定なのに携帯電話がまったく普及してないとか(携帯電話があればもう少しどうにかなっただろうと何度も思った)、2.5GBの音声レコーダなんてちゃちいとか、いちゃもんをつける余裕があったが、そんな小さなことを考えているぼくがどこかにいってしまった。
読んでいて、ポール・オースターの『最後の物たちの国で』を思い出した。あれも若い女性が救いようのない状況におかれている物語でありながら、妙に希望を感じさせてくれた。この作品にも同じような希望を感じた。