コンラッド(中野好夫訳)『闇の奥』
原題は"Heart of Darkness"。『地獄の黙示録』の元ネタであり、T. S. エリオットの『荒地』にもその一節が引用されている、コンラッドの代表作だ。コンラッド自身が船員時代に経験した出来事をほぼそのままなぞった物語だそうだ。
連絡がとれなくなった象牙商人クルツを探しにアフリカの奥地に船をこぎ出してゆく。そこで描き出されるのは実際に起きる出来事(偶発的な死と必然的な死という二つの死)よりもむしろ、その予感と余韻だ。ある意味序章と終章だけでクライマックスの部分がすっぽりぬけているようにも思えるが、予感と余韻だけですべて語り尽くされされているのだ。
ちょっと翻訳が古くさいのが難点だが、それでも文章の力強さは十分伝わってくる。伝達やあいさつのための機能的な言葉ではなく、呪文のように世界をゆさぶることのできる言葉だ。どこかで新訳をださないだろうか。