グレイス・ペイリー(村上春樹訳)『最後の瞬間のすごく大きな変化』
作者についてはまったく知らなかったが、表紙のエドワード・ホッパーの絵と村上春樹訳ということで読もうと思った。
17編からなる短編集。訳者の後書きから引用すると作者は「フェミニストにして社会運動家、ユダヤ系伝統文化に強く傾倒する、政治意識の強い女性作家」だそうで、作者自身をモデルにした女性の家族や隣人たちとの関わりを主に描いていながら、表面的な日常性とかけはなれたところで物語が進んでいく。
所収されている『父親との会話』という作品の中で、彼女(正確には彼女をモデルにした主人公)の父親が彼女の作品についてひとことで説明してくれている。「人々が木の中に座ってわけのわからんことを話して、あらぬ方から声が聞こえてきて……というようなやつだよ」。これはかなり正確な批評だと思う。
だが、決して難解というわけではなく、不思議な浮遊感がある文章で、描かれている人々にタフに生き抜くパワーを感じた。