舞城王太郎『熊の場所』

熊の場所

三編からなる短編集なのだが、なぜかそれぞれフォント、レイアウトが異なっている。

熊の場所
40×16行。ふとクラスメートのカバンの中に猫の尻尾を見つけてしまった「僕」。人は自分の恐怖の源泉に立ち戻らなくてはならない。それも早ければ早いほどいい。そうしないと、その場所は「熊の場所」になってしまう。村上春樹の『七番目の男』が語ったような、ある種説話的な物語。「熊の場所」だらけのぼくには耳が痛い。
バット男
23×18行×2段組。倉持裕がこの作品を脚色した舞台をみて、この本を買おうと思った。「バット男」とは正義のヒーローではなく、弱者がさらなる弱者を虐げるという連鎖の最下層に位置する人間をさすいわば象徴的なキャラクターだ。舞台では、何度も姿をあらわしたが、小説では、どんでん返し的な意味合いを含ませながら、ようやく終わり間際に姿をかいま見せる。主人公の「バット男」になりたくないという祈りは小市民的だけど、今の時代では、とても切実なのがわかる。
ピコーン!
39×17行、文字が小さくて下の余白が大きい。躁病的に元気のいい女性の一人称語りが気持ちいい。でもその語りとはうらはらにこれは喪失の物語だ。そして、その喪失にきちんと向き合うために「ピコーン!」と閃くという物語でもある。

★★★