この劇の元ネタということで、ひさしぶりに再読。劇は小説から弟が兄の妻と同じ室に一泊するというシチュエーションを借りているだけで全く別物のつもりで見ていたが、あらためて小説を読むとセリフや人物設定など思ったより引用されているのだった。 この時代の小説を読むといつも意外に感じるのが生活水準の高さだ。食後のプリン(プジング)なんかがふつうに出てくる。休みなども今より断然多くて、平気で数週間の旅行に行ったりできるし、文化的活動に多くの時間を費やしている。もちろん、それは登場人物の階層が高いからそうなのであって、一般庶民の生活はこうはいかないだろう。でも新聞小説として連載されたものなので、新聞購読者の平均からそうは隔たってないはずだ。それから数十年後にあの愚かな戦争に一丸となって突入したことが信じられない。 ...
兄が弟に、妻と一緒に一晩過ごしてその夜起きたことを逐一漏らさず報告してほしいと依頼する。夏目漱石の『行人』から借りてきたシチュエーションだが、舞台は現代だし登場人物ひとりひとりの個性が際立っている。兄はもともとパフォーミングアーティストで今は大学で教えている。とても繊細で傷つきやすい人間だ。妻は元彼の教え子だった。奔放だが自分を空っぽだと思っていて外から来るものを拒まない。弟はフリーターで現在無職。小説家志望で一つの職を長く続けることができない。倒れた母の介護のために三人は一緒に暮らすことになる。夫婦の間には通常の性的関係はない(代わりに二人で奇妙なパフォーマンスを行う)。兄は女性に性的興味を持てないのだ。兄と弟の間にはホモセクシャルな愛情がある。 ...