カズオ・イシグロ(土屋政雄訳)『クララとお日さま』

AIが「心」を持つことはできるのかという問いは何度も繰り返されていまだに結論が出てない問題だけど、本書ではその問いはスキップされて、主人公のAF(子どもの友だちとしてつくられたAIロボット)クララは人間以上に繊細な「心」を持ち、中では複雑な感情が揺れ動いていることが所与のこととして提示される。 ...

カズオ・イシグロ(土屋政雄訳)『忘れられた巨人』

ジャンルの垣根を飛び越えた多様な作品を発表し続けるカズオ・イシグロ。今回の作品はトールキンばりのファンタジーだった。騎士や龍、鬼、妖精なんかが出てくる。舞台は中世のイギリスだ。伝説の王アーサー王が亡くなった直後の時代。その頃のイギリスはケルト系のブリトン人とゲルマン系のサクソン人が共存し、貧しいながらも平和な生活を送っていた。だが濃い霧がたれ込めて人々は昔の記憶をなくしている。 ...

カズオ・イシグロ(土屋政雄訳)『わたしを離さないで』

エナメル質が削り取られて神経がむき出しになった虫歯のように、身も蓋もなく悲しい喪失の物語。 物語の核心にある謎というわけでは全然ないので、決してネタバレにはならないと思うのだが、この作品について触れる人は、物語の状況設定を書かないことが不文律のようになっているようなので、ぼくもその顰みにならう。 ...

カズオ・イシグロ(入江真佐子訳)『わたしたちが孤児だったころ』

カズオ・イシグロは、望みや使命を果たすことができず何らかの悔恨、失意とともに生きるようになった人を一貫して描いているような気がする。この作品でも、長じて探偵として活躍するようになった主人公が、満を持して生まれ故郷の上海に戻り、少年時代に相次いで失踪した両親の行方を追跡するが、日中戦争開戦の混乱や彼の属するイギリス人社会にはびこる無気力のせいもあって、なかなか成果をあげられない。あきらめかけた頃、真相は意外なところからやってきた……。 ...

カズオ・イシグロ(古賀林幸訳)『充たされざる者』

<img src=“http://i1.wp.com/ecx.images-amazon.com/images/I/411xB-d1cNL._SL160_.jpg?w=660" alt=“充たされざる者 (ハヤカワepi文庫)” class=“alignleft” style=“float: left; margin: 0 20px 20px 0;”” data-recalc-dims=“1” /> 以前『日の名残』を読んだときには、「すごい」というより「うまい」というタイプの作家かと思ったが、謹んで訂正したいと思う。カズオ・イシグロはすごい。 文庫で900ページ以上ある大作だが、一気に読んでしまった。 ...

Kazuo Ishiguro "Nocturnes"

英語のペーパーバックを読み通したのは村上春樹の短編の英訳版に続いてこれが2冊目。読みやすいかと思ったけど、いきいきした俗語表現の意味をとるのにてこずった。 ...

カズオ・イシグロ(土屋政雄訳)『日の名残り』

長年ひとつの屋敷に勤め上げ老境にさしかかった執事ミスター・スティーブンスが、イングランド西部地方を自動車で一人旅する。彼の目に映るのは現在(1956年が舞台)の風景より、過去の思い出だ。最初、自らの高い職業意識と、かつての主人ダーリントン卿に対する尊敬の念が語られて、失われゆく時代、文化に対するノスタルジーがテーマのちょっとアナクロな作品なのかと思わせるが、だんだんこのスティーブンスがミステリーなどでいうところの「信頼できない語り手」であることが明らかになってきて、これがまぎれもない現代の小説であることがわかる。 ...