Prince『ときどき四月に雪が降る』

震災直後の2011年4月にはじまった直後から聞き続けていたラジオ番組『菊池成孔の粋な夜電波』が年内で終わってしまうという告知をきいた。最初ピンとこなかったのだけど、徐々に喪失感が膨れあがってきた。たわいのない馬鹿橋のなかにふと紛れ込むウイズダムと愛情に満ちた言葉と音楽は、日常と生きることの本質みたいなものの間の架け橋の役割を果たしてくれた。

そんななかたまたま聴いた Prince の “Sometimes It Snows In April” (きいたのは Meshell Ndegeocello のバージョンだったが)の歌詞がちょうどこの喪失感をうまく表現しているような気がしたので訳してみた。

Prince 自らが主演した “Under the Cherry Moon”という映画のサントラに収録されている曲で、歌詞に登場するトレイシーというのはPrinceが演じた役名だ。ジゴロのピアノ弾きが財産目当てで女性を誘惑するが、ほんとうに恋してしまうというストーリーらしく、映画未見なので、この歌の哀切な世界観とどう接続するのがよくわからない。映画は興行的にはこけたそうだ。

でも歌詞はほんとうにすばらしい。特に最後の一行は涙を禁じ得ない。この歌を粋な夜電波に捧げたい。

トレイシーは長い内戦の果てに死んだ
彼の最後の涙をふき取ってあげたすぐあとに
彼は今までより幸せだろう
こちらに残されたばかものたちよりずっと幸せだ
トレイシーのために泣いた、彼はただひとりの友達だったから
ああいう車は毎日は走ってない
トレイシーのために泣いた、もういちど彼に会いたかったから
でも、人生はいつも思い通りにいくわけじゃない

ときどき四月に雪が降る
ときどきたまらなく気が滅入る
ときどき人生がずっと続けばいいのにと思う
いいことはすべていつかは終わる

春はずっと大好きな季節だった
恋人たちが雨の中で手をつなぐ時期
今では春になってもトレイシーの涙しか思い出さない
いつも愛のために泣いていた、痛みのためじゃなく
彼は力強くこう言っていた
死ぬのは怖くない
死は怖くない、それはただおれを眠ったままにするだけだ
今彼の写真をみてわかるのは
誰も彼のようには泣けないということだ

ときどき四月に雪が降る
ときどきたまらなく気が滅入る
ときどき人生がずっと続けばいいのにと思う
いいことはすべていつかは終わる

天国を夢に見た、彼もそこにいるのだろう
別の友達を見つけたかもしれない
四月の雪が投げかけた問への答えも見つけたかもしれない
わたしもいつかまたトレイシーに会えるだろう

ときどき四月に雪が降る
ときどきたまらなく気が滅入る
ときどき人生がずっと続けばいいのにと思う
いいことはすべていつかは終わる
いいことはすべていつかは終わる
そして愛は、過ぎ去ったあとはじめて愛になるのだ