子供時代の唄
ヴィム・ヴェンダーズの『ベルリン天使の詩』より。
子供が子供だったころ
腕をぶらぶらさせて歩いた
せせらぎが川になったらいいなと思った
川が滝に
水たまりが海に
子供が子供だったころ
自分が子供だと知らず
すべてに魂があり
すべての魂はひとつだった
子供が子供だったころ
好き嫌いもなく
癖もなかった
足を組んで座り
いきなり駆けだした
髪に寝癖をつけて
写真に写るときもすまし顔をしなかった
子供が子供だったころ
これらの質問の出番がくる
なぜわたしはわたしで君じゃないの?
なぜわたしはここにいてそこにいないの?
いつ時間がはじまって、いつ宇宙は終わるの?
お日さまの下で生きているのは単なる夢じゃないのかな?
わたしが見たり聞いたり嗅いだりするものは
世界がはじまる前の世界の幻じゃないの?
悪いことをする人がいるとしても
悪ってほんとうに存在するのかな?
このわたしが生まれる前にはわたしは存在しなかったってどういうこと?
そして、このわたしはいつかわたしじゃなくなるの?
子供が子供だったころ
ホウレンソウやエンドウ豆、ライスプディングをのどにつまらせた
蒸したカリフラワーもだ
今じゃちゃんと食べられる、いやいやじゃなく
一度だけ見知らぬベッドの上で目覚めた
今では何度も何度も目覚める
たくさんの人が美しく見えた
今じゃ一人か二人だけ、それも運がよければ
天国のイメージがはっきり見えた
今じゃせいぜいあるかもしれないと思うだけ
虚無なんて考えもしなかったが
今はその考えに震える
子供が子供だったころ
夢中になって遊んだ
今でも同じく興奮するが
仕事に関することだけだ
子供が子供だったころ
リンゴとパンだけで十分だった
今も同じ
子供が子供だったころ
イチゴで手がいっぱいになった
今もそうだ
新鮮なクルミは舌がちくちくした
今もそうだ
山に登るたび
さらに高い山を求め
街にたどりつくたび
さらに大きな街を求めた
今でもそうだ
一番高い桜の枝に手をのばした
今もその元気は残っている
人見知りをした
今でもそうだ
最初の雪を待った
今でも同じように待つ
子供が子供だったころ
木に向かって棒を槍のように投げつけた
今もそれはその場所で揺れている
“Lied vom Kindsein(Song of Childhood)” by Peter Handke(Original, English)