The Power of 'i' (直訳すると「アイ」の力)

Q

虚数単位をiとして、 iのi乗を計算すると実数になるそうですが、これが偶然だとしたらすごいことですね。そもそもi乗するということはどういう意味をもつ操作なんでしょうか?

A

まず複素数の実数乗を考えてみましょう。複素数zを絶対値rと偏角$\theta$により以下のように極形式であらわします。

$$z = r\,(\cos\theta + \mathrm{i} \sin\theta) = r\,\mathrm{e}^{ \mathrm{i}\theta}$$

そうするとzの実数x乗は以下のように計算できます。

$$z^x = r^x \mathrm{e}^{\mathrm{i}x\theta} $$

結果の複素数の絶対値を $r’$、偏角を $\theta’$とすると、

$$ \left\{ \begin{array}{l} r' = r^{x} \\ \theta' = x\theta \end{array} \right. $$

つまり実数x乗するということは絶対値をx乗して偏角をx倍することです。視覚的にとてもわかりやすいです。

ただし、ひとつの複素数に対応する偏角は$\theta + 2n\pi (n = 0, \pm 1, \pm 2, \ldots)$という形になり値としては無限個存在するので実は実数乗の結果も無限個存在します。一般に複素数の世界ではべき乗の結果は無限多値になります。特定の範囲の値だけを主値として通常の一価関数のように扱うこともあります。

yi(yは実数) という形の純虚数乗も同様に極形式で考えられます。$z^{y\mathrm{i}}$は以下のように計算できます。

$$z^{y\mathrm{i}} = r^{y\mathrm{i}} \mathrm{e}^{-y\theta} = \mathrm{e}^{\mathrm{i} y \log r} \mathrm{e}^{-y\theta}$$
$$ \left\{ \begin{array}{l} r' = \mathrm{e}^{-y\theta} \\ \theta' = y\log r \end{array} \right. $$

つまり、対数や指数関数でスケールが変換されてますが、おおざっぱにいうと複素数を虚数乗すると絶対値rと偏角$\theta$ が入れ替えられたような作用をもたらすといえます。式を見てわかるように$\mathrm{i}^\mathrm{i}$が実数になるのは偶然ではなく、絶対値が1の単位円上の複素数はすべてi乗すれば実数(偏角が0)になります。

先程実数乗のときは絶対値が一定で偏角が異なる結果が無限個ありましたが、虚数乗した場合は偏角が一定で絶対値が異なる結果が無限個存在します。例えば$\mathrm{i}^\mathrm{i}$の値は$\mathrm{e}^{-\frac{\pi}{2} + 2n\pi} (n=0,\pm 1, \pm 2,\ldots)$ となります。

以下に -3-3i 〜 3+3i の範囲の複素数をi乗した結果の絶対値と偏角をjupyter notebook+Pythonで図示した結果を示します(絶対値は対数スケールで色分けして $\mathrm{e}^{-\pi} \sim \mathrm{e}^\pi$ の範囲を主値としています)。絶対値が放射状に変化し、偏角が同心円状に変化するという逆転の状況が一目で確認できると思います。

最後に一般のx+yiという形の複素数乗の場合の絶対値と偏角も載せておきます。

$$ \left\{ \begin{array}{l} r' = r^{x} \mathrm{e}^{-y\theta} \\ \theta' = x\theta + y\log r \end{array} \right. $$