FUKAIPRODUCE羽衣『サロメ vs ヨカナーン』

サロメ vs ヨカナーン

直前まで迷ってギリギリ千秋楽にみにいった。エロとダジャレが飛び交うミュージカル。明らかにぼくのテリトリーじゃない。幕が開くと、いきなり7人の男たちが妙な歌と振付で登場して、まちがったところに来てしまった感が強まり、これから二時間堪えられるか不安になったのだが、終わってみれば掛け値なしに楽しめた。どこがよかったのか、自分自身にもうまく説明できない。間違いなく素晴らしいのは音楽の使い方。人生の歌はよかった。あれで終わったほうが盛り上がっただろうに、そうせずに子供のエピソードで静かにほのぼのと締めたことも含めて、そういうシンプルで暖かい世界観も悪くなかった。なんだかくせになってしまう感じだ。

サロメとヨカナーンは原作では相思相愛のカップルでは全然ないので、むしろトリスタンとイゾルデでも、ペレアスとメリザンドでも、アントニーとクレオパトラのほうがよかった気もするが、とにかく「ワイルド」系な町を舞台に7組の男女のそれぞれの情熱やペーソスを感じさせる愛の形を描く歌と踊りのミュージカルなのだ。一組くらいは原作の残虐なシーンかもしくはそれをメタファーとして感じさせるカップルがいてもよかった気もする。

箸置きか潤滑油的に挟み込まれるタクシーで街中を連れ回される桝野浩一さんのシーンが何ともいえない味付けになっていた。

ちょっと思ったのが、タクシー運転手役の藤一平さんは自分を町の王になぞらえる台詞もあって、原作のヘロデ王に対応する役だと思うわけだが、声がいいし風格もあるし、タクシー運転手のヘロデ王という新解釈で歌と踊りなしのストレートプレイがみたくなった。ヨカナーンは桝野浩一さんがいい。あのとぼけた感じそのままで不条理な迫害を受けるヨカナーンを演じてほしい。

千秋楽だったので小道具に使ったチュッパチャプスの残りをもらうことができた。ラッキー。

原案:オスカー・ワイルド、脚色・演出・音楽・美術:糸井幸之介/東京芸術劇場シアターイースト/自由席3200円/2013-02-11 14:00/★★★

深井順子、西田夏奈子、鯉和鮎美、大西玲子、伊藤昌子、中林舞、浅川千絵、岡本陽介、日高啓介、代田正彦、高橋義和、澤田慎司、加藤靖久、ゴールド☆ユスリッチ、藤一平、桝野浩一