中井美穂×シアターグリーン企画 水素74%『師匠の部屋』
中井美穂さんが出した「落語」、「師匠の部屋」というお題に沿って若手三劇団が競演するという企画。水素74%の田川啓介はそれに対して、共依存的な師弟関係をもってきた。暴力を媒介にしてちょっと同性愛的なニュアンスのある関係。師匠が弟子に教えているのは、落語でもそのほかの芸事や武道でもなく、生き方や考え方のようなもの。若いころに傷害事件を起こした弟子に対して、自分の頭で考えず、俺が考えるように考えろとたたき込み、それをマスターすればお前は俺になるんだ、という一種宗教的な帰依のような二人だけの世界を作りあげている。そこにあらわれるのが師匠の生き別れた娘。借金まみれで虚言癖のあるとんだくわせものなのだけど、師匠は娘との生活という世間並みの幸福を夢みてしまう。安定した関係性が、この娘の出言で突如不安定になり、物語が動き始める……。ラスト、ひとりきりで部屋の真ん中に座っている師匠の姿が想像力をくすぐる。
終演後、中井美穂さんと田川さんのアフタートークがあって、そこでいろいろなことがわかった。田川さんの人となり(もう少しシャープな感じかと思ったが脱力系でとぼけた感じの人だった、いい意味で)とか、水素74%というプロジェクト名の由来(空気が変といわれるので水素、74%は水素が爆発性をもつようになる濃度)とか。今回まったく関係なかったような、落語というテーマは、登場人物がみな間の抜けているところとか、部屋のセットは客席に対して傾いているのに、正面を向いて(部屋からみると斜めに)座るところに、取り入れたそうだ。
役者もよかった。青年団の二人はさすがの安定感で、娘役の浅野千鶴さんのするりとすりぬけるようなセリフ回しにひきこまれた。
あと、はじめていったけど、池袋駅からほど近いのに落ち着いていて、シアターグリーンの周囲の雰囲気もよかった。劇場への行き帰りもまた芝居の一部なのだ。
作・演出:田川啓介/シアターグリーン Box in Box Theater/指定席3000円/2012-08-18 16:00/★★★
出演:近藤強、折原アキラ、浅野千鶴