青☆組『パール食堂のマリア』
作・演出:吉田小夏/三鷹市芸術文化センター星のホール/自由席2500円/2011-07-30 19:00/★★
出演:荒井志郎、福寿奈央、林竜三、藤川修二、足立誠、木下祐子、高橋智子、天明留理子、石松太一、大西玲子、小瀧万梨子、櫻井 竜、如月萌
想像力を刺激してくれるタイプじゃなく、ポピュラリティーのあるウェルメイドな演劇。
横浜(をモデルにした港町)の小さな洋食店を舞台に、そこの一家と周辺の人々の人間模様を描いている。舞台となる年代は昭和47年(1972年)で、そこには終戦直後からの記憶の重層があり、米兵との混血児の存在が差別とからめて描かれていたりもする。今より価値観が単一的で、周縁にいる人々にとっては生きづらかった時代だ(もちろん現代には現代の、主に持続する不景気に伴う、閉塞感があり、それがこの時代にノスタルジーを感じる理由にもなっているわけだが)。そういう生きづらさは所与のものとして、人々はそれぞれひたむきに生きている。
作・演出の吉田小夏さんを含めて、青年団出身の人たちがかなり関係しているが、そこで追求されていたある種のリアルさと対極に、登場人物のキャラクター設定や物語で発生するイベントは、どちらかといえば戯画的だ。昔懐かしい昭和のホームドラマをみているような感覚。ただ、単なるホームドラマにおさまりきらない要素として、何度も死と誕生を繰り返している猫の魂の存在(たぶん、今年2月の公演『雨と猫といくつかの嘘』から滑り込ませたものではないだろうか)があって、それがこの作品に神話的な深みを与えていた。
登場人物はそれぞれ愛着がもてるし、こういう暖かみのある作品もいいものだ。特に心身が疲れているときにはぐっとひきこまれそうだ。