乞局『汚い月』

乞局『汚い月』

作・演出:下西啓正/笹塚ファクトリー/自由席3000円/2009-11-07 19:00/★

出演:佐藤祐香、村上聡一、伊東沙保、西尾佳織、浅井浩介、佐藤幾優、石田潤一郎、墨井鯨子、岩本えり、三橋良平、井上裕朗、下西啓正

はじめての乞局(コツボネ)、はじめての笹塚ファクトリー。

飛行場近くの6階建てのマンション。飛行機の経路が変わって昼間はときおりものすごい轟音が鳴り響くようになった。それにあわせて大声で叫びストレス解消する女たち。主人公はそこに住む若夫婦。ある日、夫が通勤の電車の中で突然死して内臓や角膜を臓器提供されてしまう。死の前後の時間をいきつ戻りつしながら、空港へ抗議するための怪しげな署名活動、夫のその後輩の女性との奇妙な関係、夫の死の謎を探ろうとする妻、臓器移植を受けた人との出会い。そして衝撃的なラストへ。

こうやって書いてみると、そういう芝居をみたくなってしまうが、ぼくがみたのはなんかちがう芝居だった。下西啓正はたぶん観客を不快にさせようとしていて、それこそがエンターテインメントだと思っている。ぼくもそのことは薄々知った上で臨んだのだが、その不快さが肩すかしだったのだ。

まず、ストーリーを構成するひとつひとつのエピソードはなかなか面白いんだけど、その間のつなぎが弱い。サスペンス的に盛り上げるだけ盛り上げておいて、結局どれもあいまいなまま終わっているのだ。

もちろんあいまいな恐怖をあおりたてる不条理劇としての方向性もありだが、今回はそれ以前にセリフが不自然すぎた。人はそれぞれの関係性の中で言葉を発するはずなのに、ちょっとありえないような言葉遣いをする。たとえば、ほとんど初対面の人の前で唐突に切れたり、しかもそれがみなヤンキー的な切れ方だったりするのだ。それは、日本人だったらとか、ちゃんとした社会人ならこうだろうという単なる習慣と異なることの違和感ではなく、もっと普遍的な、各人物がその場にいる内的な理由が欠けていることからくる違和感のような気がした。どういう目的をもってその場に来ているのかがはっきりしないから、それに応じた発言ができないのだ。だから単なるオウム返し的な応答と、突然のぶち切れの間を行き来するしかなくなってしまったような気がする。