KAAT DANCE SERIES『CARCAÇA -カルカサ-』

ダンスを見てると言葉と別の手段でなにかが伝達されているのを感じる。それはつまりコミュニケーションで、ダンスと演劇の共通点はこれまで思っていた以上に多い気がする。
メッセージ性が強い作品だ。ダンスを通してだけじゃなく、直接的に歌や書かれた文字でメッセージが伝えられる。独裁者の圧政や搾取に抗議する歌だ。そしてなんと「すべてのかべはくずれる」と平仮名で擬似的な壁にペイントされて、その壁は実際に崩れる。世界中であらたに壁を築こうとする極右ポピュリズムが席巻する中、こういうストレートでダイレクトなメッセージこそが必要な気がする。
彼らの祖国ポルトガルは1974年まで長く独裁制がしかれていた歴史がある。タイトルの carcaça はポルトガル語で(主に動物の)死骸、骨という意味でポルトガルの歴史と現在を象徴するものとして選ばれている。ダンサーはぜんぶで振付のFerreiraさんを含めて10人。みんな協調したアンサンブルをしそうなところだが、けっこう個人プレーだった。体格もばらばらだ。ひとり義手のダンサーがいる。義手を効果的な舞台装置として使っていた。
ダンスでは音楽は重要だ。今回はドラムとエレクトリックミュージックのリアルタイム演奏。これがすばらしかった。細かで繊細なリズムでこっちの身体も揺さぶられる。
ダンスは観客として(もちろん踊り手としても)まったくの素人でちゃんと理解はできないけど、だからこそ新鮮だ。もっとみてみたい。
振付、演出:Marco da Silva Ferreira/神奈川芸術劇場大ホール/メインシーズンパスポート(35700円)/2025-10-24 19:00/★★★
出演: Marc Oliveras-Karasas, Marco da Silva Ferreira, Nala Revlon, André Speedy, Fábio Krayze, Maria Antunes, Max Makowski , Mélanie Ferreira, Nelson Teunis, Eric Amorim dos Santos、(音楽)João Pais Filipe、Luís Pestana