シス・カンパニー『あなたの目』
長いブランクから二度目の観劇だけど、なんというか一度目より今日の方が、こういうものを求めて劇場に通っていたんだな、という気づきが大きかった。前回の芝居も申し分なくおもしろいと思ったのだが、ぼくが芝居に求めているものは微妙に違っているらしい。すぐに思いつくのは劇場のサイズだが、それ以上に役者の数が重要な気がする。たくさんの役者が入れ替わり立ち替わりというものより、少数の役者の演技に集中するのが好きなのかもしれない。まあ、このあたりはあまり言語化しすぎると、おもしろくなくなってしまう気がするので、これ以上深掘りはやめておこう。
原題は The Public Eye 。private eye は私立探偵という意味なので、そのもじりということになる。実際登場人物のひとりは私立探偵だ。
成功した会計士のチャールズが土曜の夜にオフィスに立ち寄ると、見知らぬ男が待っていた。てっきり客だと思うが、実は彼が雇った私立探偵クリストフォルだった。前任者が亡くなってそのときが初対面だったのだ。チャールズは、最近ギクシャクしている妻に愛人ができたと思い込んで調査を依頼していた・・・・・・。
クリストフォルのキャラクターがすばらしい。彼は自分の人生を生きることより他人の人生を見ることを主体的に選択した人間で、そのためには私立探偵という職業はうってつけだった。そんな彼が今回はちょっと逸脱をしてしまう。その逸脱がとても魅力的なのだ。饒舌で食えない男のクリストフォルを八嶋智人がみごとに演じきっていた。彼のためにあるような役だった。ナイロン100℃『消失』のリンド役に次ぐ名演だったと思う。
作:ピーター・シェーファー、上演台本、演出:寺十吾/新国立劇場小劇場/バルコニーB席3500円/2020-09-26 19:00/★★★
出演:小林聡美、八嶋智人、野間口徹