青年団リンク キュイ『プライベート』

これは演劇ではない

『これは演劇ではない』というフェスティバルの参加作だが、今年最初に見た演劇と言っていいのだろうか。

あたかもドキュメンタリー的に、舞台で稽古の日の様子を断片的に再現する。奇妙に自己言及的だが、これが不思議におもしろいのだ。過去の記憶を想起する行為の中にすでに詩情が含まれているのかもしれない。稽古場の数だけいくらでも再生産できる手法ではあるが、反面差別化が難しい。そこにある特徴的なコンテンツが何かということを逆に問われてしまう。

今回のタイトル『プライベート』がそのコンテンツにあたると思うのだけど、出演者たちが都度言及したりするものの、ふわりとしていて正直みている間はコンテンツといえるだけの強度がない気がしていた。見終わってからふと気づいたのが作者の不在だ。ふだんの綾門戯曲では、これでもかというくらいインパクトの強いフレーズが飛び交う。今回それがないだけでなく、表面的に戯曲作者としてした仕事の形跡はこれだけなのだ。そのかわり出演者には頻繁に言及される。三人姉妹のプロトポポフのように一度も登場しないのに出演者以上の存在感がある人物がいるけど、まさにあんな感じだ。実際のところ虚実いりまじっているはずのこの演劇空間に巧みに姿を隠した作者だけど、(特に虚の部分に)大きく関与しているのはまちがいないはずなのだ。それが舞台から見えない状態(=プライベート)になっているのが今回の肝ではないか。そう感じた。

作:綾門優季、演出:橋本清/こまばアゴラ劇場/自由席3000円/2019-01-05 19:30/★★

出演:串尾一輝、西村由花、新田佑梨、滝沢朋恵、橋本清、畠山峻、原田つむぎ、むらさきしゅう