小田尚稔の演劇『是でいいのだ』
タイトルはドイツの哲学者カントの臨終の言葉から。彼の「あなたの意志の格率が常に同時に普遍的な立法の原理として妥当しうるように行為せよ」という有名な言葉が何度か引用されるが、決して上滑りしたり浮ついたりすることはない。2011年3月の震災を軸に東京で暮らすふつうの若者たちの日常と地震によるそのほころびがモノローグで語られる。妙な身体の動きはないが語り口はチェルフィッチュ風だ。友だちに話しているような調子なんだけど微妙な人工くささが組み込まれている。
登場人物は、就活に疲れた女子大生、別居中の夫婦、自分はこの先ずっと孤独なままかもしれないと怯える留年中の学生、そして書店勤務をやめ教師になる夢をかなえようとする社会人一年目の女性。それぞれの人生は交錯したり、しなかったり、あえて演劇的な整合性をさけて非対称なまま綴られてゆく。新宿、六本木、国分寺などの具体的な地名とともにあたりの地理が言葉で丁寧に語られ、脳裏に浮かぶ街並とそこで暮らす人々の息吹がリアルに感じられる舞台だった。
作・演出:小田尚稔/新宿眼科画廊・地下/自由席2200円/2016-10-12 19:30/★★
出演:板橋優里、豊島晴香、橋下清、細井準、山村麻由美