グリング『吸血鬼』

グリング『吸血鬼』

作・演出:青木豪/青山円形劇場/指定席4300円/2009-03-07 19:30/★★

出演:高橋理恵子、中野英樹、平田敦子、みのすけ、萩原利映、遠藤隆太、杉山文雄、安藤聖、辰巳智秋

時代から取り残された汚らしいアパート。その一室でちんどん屋の一行が偶然住人の死体を見つける。その死は自殺として処理される。しかし、彼女(死んでいたのは若い女性だったのだ)の大学時代からの友人で、売れないシナリオライターである菊池は、その死に疑問を持ち、家族や職場の人間関係を調べ始める、というかほとんど想像で補いながら、彼女の死をシナリオに仕立てようとする。まるで吸血鬼のように彼は彼女が残した血をすすりつくそうとしたのだ。

それでも彼は一応真相にたどりつくのだが、それはワイドショーで取り上げられるようなとてもありきたりな真相だ。失望しかけたところで、彼の前に亡くなったはずの彼女があらわれて、彼を非難し、物語は唐突に劇が始まった最初の時間、ちんどん屋が死体を発見するところにまき戻る。ただし、そこから始まるのは別の物語、いわばパラレルワールドの物語だ。

はじめてのグリングだが、今日みたところでは、これぞグリング、青木豪というスティグマのようなものを見つけ出すことはできなかった。現代に生きるふつうの人々を等身大に描いている感じで、ほどほどの笑い、ほどほどの感傷、ほどほどの逸脱。でも、その間のバランスがよくとれているとは思った。