innerchild『(紙の上の)ユグドラシル』

innerchild『(紙の上の)ユグドラシル』

作・演出:小手伸也/青山円形劇場/指定席3500円/2008-04-05 19:00/★★★

出演:小手伸也、菊岡理紗、土屋雄、三宅法仁、石川カナエ、初谷至彦、中山智香子、津留崎夏子、仲村梓、敷間優一、松本華奈、大内厚雄、武智健二、進藤健太郎、井俣太良、小田篤史、響子、稲川香織、久保寺淳子、石村みか、宍倉靖二

一本の巨木を軸にして、異なる時代の人々、神々の物語が並行して語られる。

まずは現代日本、秋田県九日町に住む坂上家の物語。彼らは代々その巨木を守るような役目を負っている(と本人たちは思っている)。その巨木のもとでセラピーを行う精神科医の父親坂上八馬、その樹と父親に反発して東京に出て行く息子樹(たつる)、それに彼らの前に現れる謎の女性樹(いつき)。

彼らの因縁は坂上田村麻呂の奥州遠征の際、むごたらしい最期をとげた異民族蝦夷たちにさかのぼる。坂上家は坂上田村麻呂の子孫で、その樹は彼らの神木だったのだ。

そしてもうひとつは北欧神話。その巨木はこの世界を支える世界樹ユグドラシルであり、登場人物たちはそれぞれ神話の神々や巨人としての役割や性格を象徴的に負っている。

テーマは木と人間の関わり。木は感情をもたない。感情は人間の側が一方的に付与するものなのだ。その間で繰り広げられる崩壊と再生。

この作品に限ったことではないけど、小手伸也のつむぐストーリーはさまざまな神話、物語、学術書から抽出したエッセンスを有機的につなぎあわせたとても複雑なものだ。メッセージも一筋縄ではいかない深みをもっている。一方、情感や演出はむしろストレートでシンプルだ。これはある意味ミスマッチかもしれない。つまり複雑なストーリーに慣れた、すれている人たちには、ストレートな情感がものたりなくて、ストレートな情感を好む人たちには複雑なストーリーは情感を阻害するものに思えてしまうからだ。今回も途中まではそういう不整合を感じたが、終盤はかなりひきこまれた。ラストの人で樹を組み上げるシーンはほんとうに見事だった。ただ、頂上にいる樹(いつき)役の石村みかさんの表情がぼくの席から見えなかったのが残念だった。