ざわざわよ永遠に

はじめて芝居をみたとき、舞台の上で雨がふっていると思ってたら、いつのまにか外でも雨がふっていた。その雨はとても心地よくて、ぼくは雨と同時にその街も好きになった。

それから足繁くその街に通うようになり、ある日その街に関する映画をみることになった。その映画の最後で街を去る主人公の少女はこういう。

……私は下北沢にもありがとねとお礼を言った。下北沢はいつものざわざわという喧噪で返事をしてくれた。このざわめきが消えることはないし、またひとつにまとまることだってない

今、この下北沢の街のど真ん中に幅26mもの巨大な道路を通す計画がもちあがっている。壁のようにたちふさがる何もない空間と、轟音をまき散らして走り抜ける自動車の群れ。ぼくがはじめて芝居を見た劇場もその中に飲み込まれる。そうなったときに果たしてまだ、ざわざわの音は聞こえているだろうか。