一駅歩く
会社の帰り、わざと一駅乗り過ごしてみた。
大森駅から歩き始めたのは午後10時35分。さすがにちょっと怖い時間帯だ。行く手の辻で大柄な若い男が立ちどまっている。ちょうど人通りが絶え、男はぼくに覆いかぶさるように話しかけてくる。
「マッサージいかがですか」。
ふうっと深い息をつきながら通り過ぎる。
夜の街。ただひたすら夜の街だ。肌寒い風を受けながら颯爽と闇のベールをめくっていく。10:46環七を渡り、10:52内川の暗くよどんだ水面を見つめる。11時ちょうどくらいに東邦大学病院、病院前の道路は拡張工事の真っ最中だ。蒲田についたのは11時10分くらいだった。
時間も距離も短いし、コースに何の面白みもなかったが、歩いてよかった。散歩というものがもたらしてくれるもののうち7割くらいはもらった気がする。