ニコルソン・べーカー(岸本佐知子訳)『もしもし』
徹頭徹尾、日本でいうところのテレクラで知り合った男女の電話による会話からなる作品。当然、エロティックな話題が中心で、テレフォンセックスそのものもあるのだが、ニコルソン・ベーカーなので、しらけるような下品さはまったくない。アメリカの西海岸と東海岸という離れたところにいる二つの孤独な存在が、偶然電話の上で結びついて、言葉のみを使って触れあおうとするファンタジーとして読むべきだと思う。というのも、エロティックな部分はいささか退屈だったからだ。これは別にアリバイとして書いているのでもなく、上品すぎて物足りないというのでもなく、たぶんポルノグラフィー的なものがもつ本質的な退屈さ(紋切り型の表現と引き延ばし)がこの作品にもあるからだと思う。
「ねえ、電話の雑音がすごく大きくなったと思わない?心がなごむ、いつもの音。電話の終わりぎわにはいつも、この音が大きくなるような気がするわ」という言葉が一番のお気に入り。芝居の終わり間際に似たような感覚を感じることがある。
★★