阿部和重『ABC戦争―Plus 2 stories』
3篇からなる中短編集だが、共通するのは語りのゆらぎだろうか、誰がどんな状況でその物語を語っているのかというところにゆらぎがあって、語られている内容のほうも不可解な謎につつまれてしまう。といってもそれが前面に出ているわけではなく、語りにゆらぎがあるものだということが作者と読者の間の約束事というか、一種の教養として読者に求められている。
表題作の『ABC戦争』はある地方で発生したというか、発生しそうで実際には発生しなかった、高校生同士の大規模な戦闘について書かれた手記と、それを調査する男に関する話。語るということの図式の解説が多くて、途中までいささか退屈にも思えたが、ところどころに出てくるユーモアに救われた。
残りの二つは楽しく読めた。どちらもエンディングはどうかなとも思うが。
『公爵夫人邸の午後のパーティー』はどちらにもセーラー服を着た女性や猟師が出てきて、関連していそうで関連のな2つの物語が交互に語られて、最後に2つの物語はいささか興ざめな形で出会う。
『ヴェロニカ・ハートの幻影』は全身傷だらけの男の過去の物語や、オカルトもの、いなくなった飼い犬をさがしまわる女性の話など、興味深い話がいくつか語られたあと、語り手をめぐる混乱が待ち受けている。
★★