笙野頼子『タイムスリップ・コンビナート』
笙野頼子自身の投影である「私」の日常を中心とする私小説的な世界からいきなり超現実的な幻想世界にダイビングしてしまう不思議な作品たち。二つの世界の落差がとても激しい。
表題作の『タイムスリップ・コンビナート』は夢とも現実ともつかないわけのわからない電話にのせられて、鶴見線沿線の小旅行にいく話。ぼくの生まれ育った場所なので妙な親近感を感じてしまった。殺風景ですさみきったひどいところだったが、今ではわざわざそこにいってみようというような場所になっているらしい。ここで浮かび上がってくる幻想は子供時代の記憶から生まれたノスタルジックなものだ。それと徹夜明けの陽気さから生まれるようなぶっとんだユーモアがからんで、不思議な旅行記に仕上がっている。芥川賞もとって英訳もされているようなので、あの地域は文学的に多少の知名度が与えられてしまったようだ。
ほかの2編、『下落合の向こう』や『シビレル夢の水』はもっとハードな幻想。あまり楽しくなるものではなく、見てはいけない真実をのぞいてしまったという感じだろうか。
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