奥平康弘・宮台真司『憲法対論―転換期を生きぬく力』
奥平康弘氏というのは1929年生まれの憲法学者で、その人と30歳年下の宮台真司氏が憲法をめぐって対論している。といっても、宮台氏は、ひとつネタ振りをされると、それについて憲法と関係ないことまで語りまくっているので、奥平氏は完全に聞き役にまわってしまっている。対談のときからそうなのか、あとからの加筆でそうなったのかわからないが、奥平氏の発言があると逆にとても注目してしまうのだった。
憲法そのものというより、必然的に憲法に関わるといえる今の世の中の動きについて、奥平氏が質問して、それに対して、宮台氏が答えるというスタイルをとっている。それによって宮台氏の思想が浮かび上がってくるので、それを簡単にまとめてみる。
- 市民の民度(リテラシー)がとても低く、日本は近代社会の体をなしていない。まずは近代を徹底すべき。
- 憲法は市民から統治権力に対する命令であるが、それが理解されていない。
- 憲法は字義通りに解釈するのではなく、それを定めた憲法意志を読み取らなければならないが、日本の場合はそれがない。
- 天皇に対する崇敬と亜細亜主義の肯定
一番興味深いのは、最後の点で、まさに戦時中に軍部によって利用された思想を肯定的にとらえていることだ。ただ、宮台氏の場合、これらの思想は近代主義の立場から徹底的にあくぬきされている。うまくすると、亡霊のようにいつまでも生き残り続ける「国粋」という考え方、感じ方を換骨奪胎させることができるかもしれない。
あと、宮台氏が「田吾作」と呼ぶ、「祭り」メンタリティしか持たない人々は、東浩紀の「動物」という概念と重なるところが大きい。
奥平氏は、これまでの憲法とのかかわりの中で連戦連敗だったといっている。奥平氏と仲間の憲法学者の主張は最高裁レベルではほとんど受け入れられなかったそうだ。それでもそういう活動をしたことが、あとづけで世の中に認められて、少しずつよくなっているという実感があるそうなのだ。その流れを変えてはいけないと思った。
★★★