トルーマン・カポーティ(野坂昭如訳)『カメレオンのための音楽』

カメレオンのための音楽 (ハヤカワepi文庫)

カポーティは好きなタイプの作家だが、その割にはあまり読んでいない。『夜の樹』という短編集や『ティファニーで朝食を』(原作は映画のような甘ったるいハッピーエンドではなく、それどころか恋愛ものですらない)、それにちくま文庫版の短編集くらいだ。今回読もうと思ったのも、よしもとばななの『アムリタ』の中で登場人物の一人が、どこにいくにも持ち歩いて何度読んでもあきないというようなことを言っていたからだ。

長い空白期間の後に完成した作品なので、冒頭の前書きには、その空白期間に書こうとしていて結局完成することができなかった作品についての繰言が書かれている。あれあれと思わせるが、中身はさまざまに研ぎ澄まされた短編小説。

昔友人が殺された島で見る音楽に集まるカメレオンたち。ホモセクシャルであることに目覚めた子供時代の思い出。家庭にセックスを持ち込まない妻に、夫が語る寓話。推定無罪の冷酷で天才的な殺人者に、子供時代のインチキ聖者の記憶をだぶらせる。マリリン・モンローとのとびっきりピュアな会話、などなど。

★★