神林長平『ぼくらは都市を愛していた』

ぼくらは都市を愛していた (朝日文庫)

ジャケ買いならぬタイトル買い。「ぼくらは都市を愛していた」と言われれば me too と返すしかない。

2つの世界の2人の人物の視点が交互に語られる。

ひとつは、情報震という謎の現象でデジタルデータが破壊されインフラが壊滅的に鳴り、疑心暗鬼で戦争がおこり、人口が激減したあとの世界。情報軍という情報震対応を任務とした軍隊の、女性ばかりで構成されている部隊の指揮官綾田ミウのつけている戦闘日誌だ。戦闘といってももはや敵の姿も味方の姿もみかけない。彼らはデジタル機器の保護のため完全無人化されているトウキョウにたどりつく。

もうひとつは、現代と同様人であふれているトウキョウが部隊。警視庁所轄の公安部所属の初老の刑事綾田たちの部署全員に体間通信という能力が与えられる。これは一般人がスマフォで送受信している情報を傍受でき、能力を持つ者の間では、テレパシーのように、声を発することなく互いの心が読めるというものだった。彼らはある殺人事件の応援にかり出される。現場にだどりついた綾田の脳裏には自分が被害者を殺すところがありありと浮かび、同僚の女性柾谷は自分が殺される感覚におそわれる。

同じ綾田という姓をもつ二人は実は双子の姉弟だ。この二人の目にするトウキョウはなぜこうも異なっているのか?二人は果たして再び会えるのか?

緻密で硬質な文体にかすかに漂う叙情がいい。

年齢にかかわらず登場人物の名前がみなキラキラネームであるところに近未来のリアリティを感じた。