J. D. サリンジャー(村上春樹訳)『フラニーとズーイ』
たまたま野崎孝訳版の『フラニーとゾーイー』を読んだのはけっこう最近だった。まだ記憶が新しいうちに再び読むことができたのはこの小説に関してはとても良いことだったと思う。一度目手探りで物語の世界を這い進んだときと比べて今回はどこにになにがあるかほぼ勝手がわかっていたので、迷いなくかつ軽快に読み進めることができた。それには村上春樹の手堅い翻訳も一役買っていた。各シーンごとの細部の描写がすばらしい。
サリンジャーの作品は本の中に解説的なものをいれることができないので、今回小冊子が本にはさんであった。その全文がネットで公開されている。もう60年くらい前の作品なので、なにかしら補足は必要だし、村上春樹にしてもなぜ今この作品を訳すか説明の必要性を感じたようなのだ。
そこに書いてあったように野崎訳の「ゾーイー」が「ズーイ」になっているが、どちらも間違いではなく、アメリカ人で「ゾーイー」と発音する人もいるとのこと。最終的には村上春樹の好みで決めたそうだ。
山勘だが、今この翻訳がでたのは、近い将来サリンジャーの遺作を村上春樹が訳したものが新潮社からでるということの布石だったりしないだろうか。そうだとしたら楽しみだ。